松原充久的ココロ

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政治力に左右される混合診療の怪

多焦点眼内レンズ手術に見る混合診療の不思議と矛盾

医療制度の仕組みには、患者にとって理解しにくい矛盾が存在します。その一例が多焦点眼内レンズを用いた白内障手術です。この治療は、混合診療の問題を象徴するような「不思議」と「不公平」を抱えています。

1. 手術そのものは保険適用、それなのにレンズは自由診療

白内障手術自体は、国民健康保険の適用を受ける治療であり、単焦点眼内レンズを使った手術の場合、患者は保険診療の自己負担割合(1~3割)のみで治療を受けられます。

しかし、多焦点眼内レンズを選択した場合、レンズそのものとそれに付随する検査・診察費用が自由診療扱いとなり、これらの費用は全額自己負担になります。一方で、手術の基本部分(医師の手術行為や手術室の利用)は保険適用となるため、「一部は保険、一部は自由診療」という混合状態が生じています。

2. なぜ多焦点眼内レンズは保険適用外なのか?

多焦点眼内レンズは、白内障治療だけでなく、遠近両用の視力を改善する「機能的な側面」を持っています。この「機能向上」が健康保険の適用範囲外とされる理由です。しかし、白内障患者にとっては視力の質を改善することも重要な治療の一部であり、単焦点レンズと多焦点レンズの選択が経済力によって左右される現状は、不公平感を生む原因となっています。

3. 保険診療と自由診療が同時に存在する矛盾

多焦点眼内レンズを選ぶと手術の費用負担は大きく膨らみますが、手術そのものは保険診療として行われます。この仕組みは患者にとって混乱を招きやすく、なぜ手術費用の一部は保険適用なのに、肝心のレンズは自由診療なのかという疑問を抱かせます。

さらに、治療を行う医師や医療機関にとっても、保険と自由診療の境界を慎重に守らなければならず、運用上の手間や負担が増加します。この矛盾が、患者にとっての医療選択をより複雑にしているのです。

4. 患者への影響:治療格差を拡大する要因

この制度は、経済的な余裕がある患者には高度な選択肢を与える一方で、保険診療しか選べない患者には単焦点レンズしか提供されないという治療格差を生んでいます。視力の質は患者の生活の質(QOL)に直結する問題であるにもかかわらず、その向上が「自己負担能力」によって左右される現状は、医療の平等性に反していると言わざるを得ません。

解決に向けた提案

1. 多焦点眼内レンズの保険適用範囲の拡大

医療の進歩に合わせ、多焦点眼内レンズも一定の条件下で保険適用とする制度改革が必要です。

2. 自由診療部分の価格透明化と負担軽減策

多焦点レンズの費用に関する情報を患者に明確に示し、補助制度や医療ローンなどで経済的負担を軽減する仕組みを整えるべきです。

3. 混合診療制度全体の見直し

保険診療と自由診療の「線引き」を明確化し、患者が理解しやすい制度設計を目指す必要があります。

終わりに

多焦点眼内レンズを用いた白内障手術は、混合診療の持つ矛盾と不透明さを象徴する治療の一つです。この問題は、一部の高度医療だけの問題ではなく、全ての患者が公平に医療を受けられる社会を目指すための重要な課題でもあります。医療制度の透明性と平等性を高めるために、私たちはこの問題に真剣に向き合う必要があります。

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